「ふー・・・・。」

その頃、山積みにされた本に一通り目を通したセイクレッドは椅子の背もたれに寄りかかり軽く目元を押さえる。

「どうだ、何か分かったか?」

追加の本を運んできたハーディンの言葉にヒラヒラと手を振る。

「大した資料ないわねほんと。なんなのこの『カマエル』って種族。」

「なかなかガードが固いようでな、友好条約が結ばれた現在でもそれほど情報はこっちに来ていない。」

そう言いながらハーディンはセイクレッドに新聞の記事をさしだす。

「俗な雑誌だが今の所必要な情報がまとまってるのはこれくらいだ。」

受け取った記事を広げてセイクレッドはうんざりとした顔をする。書かれているのは少し前に開かれた

ギランでの全種族代表会議の記事。

カマエルの村の長老を代表とし、インナドリルのエルフ族が議長として開かれた『カマエル族を迎える』という表向きの会議。

「ぁーぁー。なんかもう記事の出だしから『うちの下僕にならないかスカウト会議』なのがバレバレだわね。」

エルフ族には特に何もないが、アインハザードの神殿を敵に回してるセイクレッドとしては連中のやり口はよく知っているのだろう。

不服そうな顔を思いっきり表面に出す。

「戦闘特化の種族・・・ねぇ。巨人の切り札・・・・こっからかしらね。情報が漏れたとしたら。」

文句を言いながらも新聞の文字を一字も飛ばさずに読みふける。

現状、オルを捕獲しているカマエル族について調べるという他に、どこから「忘れられた神」の情報が出てきたのか

それを調べる必要もある。

「全くうちのご先祖様は何冊本残してるんだか・・・。」

そうぶつぶつ言ってると荷物を背負ったヨハネが戻ってきた。

「ただーいーまー。どっこいせ。」

「おかえり。どう?」

重そうな荷物を降ろしてハーっとヨハネは隣の椅子に座りパタパタ顔を仰ぐ。そのヨハネに飲みかけのコーヒーの入った

カップを勧めるとぐびーっと飲んでから袋を指差す。

「ボクの装備は元々あるから大丈夫だけど・・・セイクレッドの装備こんなんで大丈夫かな。」

新聞を片手に持ったまま視線はずらさず空いた手でセイクレッドは袋の紐を引き開く。

「あ?アクセももってきたのあんた。」

まず目についたマジェスティックアクセセットを見る。

「んー、魔法も使う種族っぽいじゃん。ボクタテオアクセセットあるから。使って。」

倉庫の使えそうな装備と自分の貯金ありったけでなんとか戦えるだろう装備を揃える為に

ヨハネは一人ギランまで買出しに出かけていた。

難しい話は無理だとセイクレッドとハーディンに情報収集は押し付け。

「武器はそれ使って、ドラゴングラインダー。量産品だけどセイクレッドの使ってるのよりは強いと思う。」

疲れた顔のままヨハネは指差す。

「・・・ていうか買い物であんたなんでそんなに疲れてるわけ?」

不自然なほど疲れきってるヨハネを不思議に思いセイクレッドは視線をやっとヨハネに移す。

「いやー・・・流石に大使館に特攻したら疲れたよー・・・。」

「あーそう。・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

尋ねておいて適当な相槌を打ち掛けてセイクレッドは止まった。

同時にセイクレッドが読み終わった本を片付けようとしていたハーディンも固まる。

「大使館に特攻・・・・?」

そう聞き返すセイクレッドにヨハネは机につっぷしたままピースをしてみせる。

「なんとか話聞いてもらえた。長老さんへ面会許可もらえましたー☆」

その言葉に二人は顔を見合わせる。

「長老というのは・・・・この新聞に載ってるケクロプスという者か?」

ハーディンの問いにヨハネはヘラっと笑ってうなずく。

「そうそう、その写真の人。なんかね、今日大使館にいてね?明日には魂の島に帰っちゃうらしいんだけど、島着てくれれば話聞いてくれるってー。」

ほめてほめてーと続けるヨハネに呆れた顔を二人で向ける。

「・・・一体何したのよあんた・・・どうやって・・・・。」

「だーから特攻したんだってば。大使館行って警備さんが話し聞いてくれないから無理やり入ってー

話聞いてよー!ってお願いしたー。いいおじーさんだったよ?」

恐らく、本人の話の通りなのだろう。そういう事を迷わずやるのがこの元盟主だ。

「本当に愉快な娘だな。君は。」

ハーディンの感心すらした言い方にイエーイとヨハネは手を振る。

その横でセイクレッドは盛大にため息をついているわけだが。

「明日ってあんたね・・・装備しか準備できてないのに・・・・。」

「あとは気合でなんとかする!」

この無茶に毎度毎度付き合わされるセイクレッドとしてはもうため息しか出てこない。

「気合って・・・・。」

無理だと否定をしようとしたところで横で笑っていたハーディンが少し顔つきを変える。

「いや、案外うまく行くのではないか?あちらの本拠地の長老に話をつければ何かと動きやすくもなるだろう。」

その言葉に少し考える。

「確かにその通りだけど・・・・。そうなると今晩中に支度して、ベリアル一度戻らせて正確な場所連絡してもらう必要があるわね。」

「そうだな。ヨハネさん、船の手配はまだしていないか?」

そのハーディンの問いにヨハネはえっへんとした顔でポケットから切符を出して言う。

「大丈夫!朝1の便3枚押さえてきたよ!」

「・・・3枚?」

「ボクとセイクレッドとハーディンさんの分!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・私も行くのか?」

「え、行くんじゃないの?あ、イカルスさんは切符いらないよね?」

「・・・・え、私も?」

ハーディンの私塾に何か妙な空気が流れる中セイクレッドは「ご愁傷サマ」と呟いた。